北海道旭川市、「旭山動物園」や「旭川家具」が全国的に有名な川の街。 北海道のほぼ中央、大雪山系に囲まれた上川盆地に位置する旭川市。年間の累積降雪量は400cmを超え、気温差は50度以上にもなる、北海道内でも雪が多く寒暖差の大きな地域。 この案件は、そんな街の環境を受け止めなおし、新たな家主のビジョンを体現させる形でリノベーションした建築です。

 

施主は家具製作会社を営む30代の若手経営者であり、自社ブランドの家具を使って、古家を印象的なデザインに改修し活用したいという相談だった。 敷地は旭川市内でも比較的人気のエリアに位置し、約128坪の小さめな二区画分の宅地で、既にそこには地元工務店で新築された木造平屋住宅(施主の自邸)と、築46年を迎えた木造2階建ての住宅があった。モルタルの外壁に板金切妻屋根、この地域に昔よくあった典型的4LDKの専用住宅。先住者が大切に暮らしていたのだろう、築46年の割には痛みが少なく綺麗であったが、新たな若い家主と新築された自邸(母屋)の隣では、デザインも含めて古さが目立った。

施主のさまざまなビジョンがあったが、敷地は「第一種低層住居専用地域」であり、建築許可も考え行政にアプローチしたが、周辺は閑静な住宅街のために難しいという結論に至ったため、自邸の隣地という状況を活かし、母屋の「はなれ」としての活用方法を模索してゆくことになった。それが建築基準法的にも一番素直な考え方だと判断した。 私の建築に対するスタンスとして、壊すことはいつでもできるので、なるべく古さや歴史を大切にするようにしているのだが、今回は施主の要望もあり外観は大きく変えることとなった。2階部分についても母屋があるため余剰空間としては広すぎ、改修や維持管理に費用がかかることや、母屋を含めた敷地全体で捉えたときに、解体し平屋としたほうがバランスも整い、積雪の管理もしやすくて良いだろうということになった。

設計段階で内部空間の細かい利用方法は決まっていなかったので、なんとなくゾーンを感じつつも、暖房や換気・温湿度環境、光熱費、今後の自由な展開などを考慮すると、ワンルームの空間にすることが最適だと判断し計画した。 構造的にも既存部材を活かすため、基礎や1階の柱はできる限り残し、既存胴差しレベルを基準にして、西の全面道路側にむかって1/100の水勾配で上がっていく屋根形状にした。また、床レベルを基礎天端より下げ、屋根断熱とすることで、最大限の屋内空間を確保し、一部の構造体を見せる事で、既存では感じられなかった新たな空間構成を目指した。 旭川市は先に記述したように多雪区域であるため、昔は三角屋根の住宅が建ち並び、屋根の雪を互いに境界に向け落とすことでバランスが取られていた。建築としては雪を落としたほうが良いのであるが、外壁を痛めやすく結露やカビの原因になり、また、モダン住宅の流行や、除排雪の負担軽減などもあり、無落雪の四角い建物が増えている。 同様に、デザインや維持管理等を考えると、今回のリノベーションも雪は落とさない計画となった。また、雪も断熱材としての効果が見込めるので、300~400mm程度は積もっていた方が良いのである。そうは言っても、見慣れた四角い建物では印象的とは言えず、施主の希望も満たせない。

積雪地では冬場の日照確保が優先され、450mm程度の軒でも積雪荷重で折れてしまうこともあるため、軒はあまり深くない住宅建築が多い。雪は溶け水になり氷になることを毎日くり返し、徐々に建物や外構を侵食していく。 そんな雪や氷の処理で悩まされる地域のため、私は軽やかな無柱の深い軒や、薄くシャープな庇に憧れのような思いがあり、施主のチャレンジ精神にも後押しされて、西の道路側へ庇を約1700mmはね出し、北の隣地側にあるアプローチ上部も、はね出したデザインにすることになった。更に、建築コストを抑えつつも、オリジナリティーを求めていた施主は、技能五輪のメダリストが複数人在籍する自社の技術力を活かして、ファサードのサッシと玄関ドア、内部建具を製作しようということになり、施主の会社にある機械と職人で製作できるデザインとディテールを施主と共に考え設計した。

製作した木製サッシの直射日光による変形抑制を目的に、西日をコントロールするための外付けブラインドを設けた。 開閉具合によってファサードの表情が変化する。 ブラインドはサッシ上部へ格納されるため、全開時はブラインドの存在を全く感じない。 庇は、ブラインドの奥行分外壁をふかしているため目立たないが、構造体の外壁芯から約1700mmはね出している

建物の正面であるメイン木製サッシの他にも、縦長と横長のFIXや玄関ドアも施主と共に製作した、この建築だけのオリジナルです。更に今回のために施主がキッチンも製作し、自社の家具が置かれることで、インテリアと建築に一体感が生まれ、また、柱と基礎が内部に現れることで、全体の空間は繋がりつつも領域を内包する内部空間になっています。

 

この建築は、積雪への挑戦と、施主自身の挑戦から生まれた建築であり、実験的要素も多く、施主と共に造り上げた思い入れの深い建築になりました。

2017/6~2019/2